建設業の許可を取得した建設業者は、許可を維持するために法令を遵守しなければなりません。今回は許可取得後に課される義務のうち「工事現場へ配置する技術者」について解説していきます。
目次
工事現場に配置すべき技術者
建設業の許可を受けて建設業を営む場合、工事の適正な施工を確保するため、請け負った建設工事を施工する工事現場に一定の資格を有する主任技術者、監理技術者、特例管理技術者又は監理技術者補佐(以後この解説では、監理技術者等と表記します。)を置いて”施工の技術上の管理”を行わなければなりません。
主任技術者の配置
一般建設業の許可を受けている事業者は、元請・下請に関係なく、許可が不要な500万円未満(建築一式工事の場合は1,500万円未満)の工事でも、工事現場における施工の技術上の管理をつかさどる者として主任技術者を配置しなければなりません。
建設業の許可を受けていない事業者は、現場への監理技術者等の配置義務はありません。
監理技術者の配置
主任技術者は、元請・下請、請負代金の額にかかわらず、建設業許可業者には配置する義務がありますが、発注者から直接請け負った工事を施工するために締結した請負契約の額の合計が4,500万円(建築一式工事は7,000万円)以上になる場合には、特定建設業の許可が必要になり、主任技術者に代えて監理技術者を配置しなければなりません。
規模の大きな工事には、主任技術者よりも条件の厳しい監理技術者を置くことが求められます。
監理技術者等の要件
監理技術者等は、工事の施工の技術上の管理を行わなければなりませんので、誰でも良いというわけにはいきません。必要な資格や実務経験が必要で、許可を取得する際に求められる”営業所に配置する専任技術者”と同じ要件になります。
配置技術者に求められる資格等
営業所の専任技術者との関係
監理技術者等の要件は、営業所に配置する専任技術者と同じと説明しましたが、専任技術者は原則として営業所に常勤して職務に従事することが求められるため、工事現場に配置する監理技術者等にはなることができません。
そうなると、一人で切り盛りしている一人親方は建設業許可を取得できなくなってしまいますので、特例として、以下の要件を全て満たすのであれば、営業所の専任の技術者も、専任を要しない工事の監理技術者等になることができます。
※下記要件をすべて満たすこと
- 当該営業所において請負契約が締結された工事であること
- 工事現場と営業所が近接し、当該営業所との間で常時連絡を取りうる体制にあること(工事現場の職務に従事しながら実質的に営業所の職務にも従事しうる程度であること)
- 所属建設業者と直接的かつ恒常的な雇用関係にあること
- 当該工事の専任を要しない監理技術者等であること
監理技術者等の雇用関係
監理技術者等は、建設工事の適性な施工を確保するため、工事を請け負った企業と直接的かつ恒常的な雇用関係にあることが求められます。そのため、派遣社員や短期雇用の者を技術者として配置することは認められません。
【雇用関係の確認】
雇用関係は次の方法で確認します。
直接的な雇用関係 | 監理技術者資格者証、健康保険被保険者証または市区町村が作成する住民税特別徴収額通知書などで確認。 |
恒常的な雇用関係 | 監理技術者資格者証の交付年月日もしくは変更履歴又は健康保険被保険者証の交付年月日などで確認。 |
工事現場に専任を要する工事
公共性のある施設もしくは工作物又は多数の物が利用する施設若しくは工作物に関する重要な建設工事(公共性のある重要な建設工事)に設置される主任技術者や監理技術者(監理技術者等)は工事現場ごとに専任の者でなければなりません。
「公共性のある重要な建設工事」とは、次のいずれかに該当する建設工事で、工事一件の請負代金額が4,000万円(建築一式工事の場合は8,000万円)以上の工事をいいます。公共工事だけでなく、民間工事も含まれ、戸建住宅を除くほとんどの工事が該当します。
- 国又は地方公共団体が注文者である工作物に関する建設工事
- 鉄道、軌道、索道、道路、橋、護岸、堤防、ダム、河川に関する工作物、砂防用工作物、飛行場、港湾施設、漁港施設、運河、上水道又は下水道施設に関する建設工事
- 電気事業用施設又はガス事業用施設に関する建設工事
- 石油パイプライン事業法第5条第2項第2号に規定する事業用施設に関する工事
- 電気通信事業者が電気通信事業の用に供する施設に関する工事
- 放送事業者が放送の用に供する施設(鉄骨造又は鉄筋コンクリート造の塔その他これに類する施設に限る。)
- 学校、図書館、美術館、博物館、展示場、社会福祉事業の用に供する施設、病院、診療所、火葬場、と畜場、廃棄物処理施設、熱供給施設、集会場、公会堂、市場、百貨店、事務所、ホテル、旅館、共同住宅(長屋は含まない)、寄宿舎、下宿、公衆浴場、興行場、ダンスホール、神社、寺院、教会、工場、ドック、倉庫、展望塔
※詳細は建設業法施行令第27条
現場への専任が求められる場合、営業所の専任技術者は、現場における専任の監理技術者等にはなれませんので注意が必要です。
専任について
専任を要すると言っても、必ず工事現場に常駐しなければならないということではありません。
技術者の技術研鑽の重要性や働き方改革を推進する点からも、技術研鑽のための研修、講習、試験等への参加、休暇の取得、その他の合理的な理由で監理技術者等が短期間工事現場を離れることについては、次のような要件を満たせば差し支えないとされています。
- 必要な資格を有する代理の技術者を配置する
- 工事の品質に支障の無い範囲において連絡を取れ、必要に応じて現場に戻りうる体制
こうした体制について、元請けの場合は発注者、下請の場合は元請又は上位の下請の了解を得ていること。
監理技術者等の配置に関する特例
近年、建設業の働き方改革の促進や、人材の有効活用、工事の効率化の促進などの環境整備により、技術者の配置について改正がありました。
ここからは、主任技術者の配置を要しない場合と、監理技術者が2現場を兼務できる場合を確認していきます。
工事現場に主任技術者の配置を要しない場合
次の5つの要件を満たしていれば、下請負人の工事現場への主任技術者の配置は不要になります。
- 主任技術者の配置を要しない特定専門工事であること
土木一式又は建築一式工事以外の建設工事のうち、その施工技術が画一的であり、かつ、その施工の技術症の監理の効率を図る必要がある以下の工事。
主任技術者の配置に関してですから、”監理技術者”の配置が求められる工事にこの規定は当てはまりません。
2つの工事を同一の監理技術者が兼務できる場合(特例監理技術者)
公共性のある重要な建設工事では、監理技術者を専任で配置する必要がありますが、次の要件を満たすことで同一の監理技術者が現場を兼務できる特例があります。
※政令で定める者とは、一級施工管理技士補又は一級施工管理技士等の国家資格者、学歴や実務経験により監理技術者の資格を有する者のことをいいます。
建設業の許可を取得した以上、現場への監理技術者等の配置は義務ですので、要件に合わない者を配置したり、そもそも配置すらしていないなんてことの無いよう注意してください。